「で、オルがなんだって?」

慣れた手つきでお茶をいれ、テーブルの向かいに座り足を組む。

「実はここしばらく姿が見えなくて、こちらにも来てませんか?」

るーしぇの言葉に少し考える素振りをしてから

「ここに最後にきたのは2週間くらい前ね・・・。」

「こっちもそのくらい前に見たっきりなんだよなぁ。」

「どっか配達ついでに寄り道でもしてる・・・って可能性が低いから私の所に来たのね。」

茶をすすりながら言うと二人はうなずく。

「最後にオルと会ったのは誰か分かってる?」

「ヨハちゃんの血盟の人たちと聖者の渓谷で狩りをして以降の足取りが分かっていません、

今ヨハちゃんの方でもルゥン近辺を探してくれてるはずですが・・・・・」

「・・・が?」

「ルゥンでオルのらしき指輪を拾ったらしいんだわ、あのねーちゃん。」

bookerの言葉にセイクレッドが眉をひそめる。

「あいつの指輪って事はアレか・・・確かに何かあったって考える方が正しいわね・・・。

いいわ、少し待って。」

そう言うと立ち上がり、台所から包丁を手に取り軽く指に滑らせる。

「パブテスマのヨハネの名においてここに願う・・・・我内に眠りし尊き神の息吹よ・・・・

その同胞・・・制御者オノエルの位を教えよ・・・我はスリエルの守護・・・ヤルダバオトの末裔・・・・!」



地に一滴の血が落ちると同時に詠唱を口にする。一瞬だけ青い光が血から波紋のように広がったように見えたが

ただ、それだけ。

「・・・私の探索距離はこの私塾を中心に北は国境当たりまで、西が話せる島までの球状・・・・それで見つからないとなると・・・・」
目を開け、そうぶつぶつと言う。

「やっぱりルゥンでしょうか・・?」

「ちょっとこっち来て。」

そう言ってキッチンを出るセイクレッドの後を二人は慌てて追った。

「ハーディン!ハーディン!!!!」

入り口の広間に出て、セイクレッドがそうこの私塾の主を呼ぶとイカルスと何かを話していたハーディンは振り返る。

「なんだ、騒がしい。」

「ちょっと調べて欲しい事があるんだけど。代償は今日の晩御飯あんたの好きなインナイカのシーフードパスタで。」

ハーディン氏のイメージをぶち壊す気満々なセリフをハーディンに投げかけるセイクレッド。

「・・・どうした?」

それでも反応を見せるハーディン氏。

「ちょっとオルの居場所探して欲しいのよ、私の探査じゃ引っかからないからシュチュ方面まで広域で探せない?」

「問題ない、イカルスこの話はまたのちほど、シーレンの目の陣の準備を。」

『私がが?!』

「イカルス?」

露骨に不満気なイカルスにセイクレッドはにっこり微笑んで見せた。

『・・・分かった。』



「ヨハネス、ピアスを貸しなさい。」

「ん、はい。よろしく。」

準備を終えたハーディンにセイクレッドは自分のピアスを外して渡す。

「INESSで探すの?」

「お前と違って通常の方法ではあの娘に絞って探索するのは難しいのだ。」

「ナルホド。」

ピアスを手渡し陣から離れる。

「セイクレッドさんこれは・・?」

横からるーしぇに聞かれセイクレッドは、軽く説明をする。

「私は色々な事情があって普通じゃない方法でオルとヨハネを探せるんだけど、ハーディンはそうは行かない。

あのピアスは私やオル、ヨハネの元INESSメンバーの持ってるものだからそれを媒体に黒魔法で探索をかけるのよ。

アレと同じモノを持ってる者を見つけ出す。」

その説明の間にハーディンは黒魔法の詠唱を始める。

「ほら、ハーディンの下見てみなさい。見慣れない人には面白いわよ。」

ハーディンの足元に書かれた陣が形を変えエルモアデンの地図の形を成す。

「ドワーフの娘はギランに一人確認できたが・・・・。」

「特徴とか分かる?」

「荷物の中身がニンジンのみ。」

「それ兎ちゃんだわ、別人」

惜しくもはずれで引っかかったのは元INESSの眠る兎。

「む・・・・?」

探索を続けていたハーディンの様子が変わる。

「ハーディン?」

「・・・ヨハネス、アインハザードの経典は分かるか。基礎的なモノでかまわぬ。」

「え?まぁこれでもプロフィットだもの。」

「詠唱を。」

「?分かったわ。」

小さく息を吸い、魔法学校でも初期に教えられる教典の中表紙の言葉を唱える。

それに合わせてハーディンも何かの詠唱をする。

・・・と

「地図が・・・・」

ハーディンの足元にあった地図が消えてゆく。

北の方から少しづつ薄くなり、やがてグルーディオ周辺が薄くなり始めたところでハーディンがセイクレッドを

止めた。

「考えたらシーレンの目の陣だもの、アインハザードの経典読み上げたら相殺されるわね。」

それを聞かずにハーディンは消えかけた地図のある部分を指指す。

わずかだがその島らしき図の上に小さく揺れる紫の炎。

「その島だ。あの娘のいるのは。」

場所はグルーディンの北部、黄昏の信託所の北西。

「・・・こんなとこに島なんてあった?」

それを見て首を傾げるセイクレッド。それを見て、オルの血盟員二人は顔を見合わせる。

「知ってるの?」

「ここ・・・最近新種族が発見された島ですよ。」

「新種族?」

るーしぇの言葉に聞き返す。

「魂の島と呼ばれている場所だ。神への信仰を一切持たぬカマエルという種族。地図で言うと・・・・ここだ。」

陣から離れ、普通の地図を開きハーディンは羽ペンでしるしをつける。

「君ら詳しいわね。」

そのセイクレッドの言葉にBookerとるーしぇは苦笑いを浮かべる。

「最近どこに行ってもその話で大騒ぎだぞ。」

ハーディンのつっこみにセイクレッドは「そ」と平然と言ってのける。

「信仰を持たぬ種族の島だからな、シーレンの目では何も見えん。ギリギリまで力を相殺してやっと確認できた。」

そう言いながら後始末をするハーディンに

「よくそんな事気づいたわねー。」

とのんきなセイクレッド。

「陣の島の辺りで妙な揺らぎがあったので、もしやと思ったのでね。それでどうするのだ、行くのか?」

そう尋ねるハーディンに少し考えるそぶりを見せる。

「少し、先に情報収集してみるわ。ハーディンに確認できたって事は特に害のある状況ではないんでしょうし。

新種族の村とか色々めんどくさそうだしね。」

「あ、俺たちも手伝うか?そのくらいなら出来るで。」

B20の二人の申し出にうなずく。

「頼むわ。・・それとハーディン。」

「あちらのヨハネを呼び出せばよいのだな、すぐにやろう。」

「さすが、よく分かってるわね。お茶入れて置くから終わったら飲んで頂戴。」

「昆布茶で頼む。」